『もっと元気にな〜あれ』(その7) 「田舎暮らしもいいけれど」

(写真:雪に覆われたかやぶきの民家・京都府南丹市美山町)—>
2011年9月17日
『もっと元気にな〜あれ』(その7)
 「田舎暮らしもいいけれど」
 (京都府南丹市美山町) 
 
 定年までひたすら働いた。これからは、通勤電車の混雑も経験しなくて済む。会社という組織に縛られることもない。職場での複雑な人間関係からも解放される。ここらあたりで身体を休め、これからどう生きるか、じっくり考えたい。自由に使える時間はたっぷりある。これからは夫婦二人だけの生活。のんびりと、何からもせきたてられない田舎暮らしでも考えてみるか・・・。

 都会の喧騒から離れ、田舎へ移り住みたいと願う人は多い。田舎暮らしを望む理由は人それぞれ。共通するのは、豊かな自然があって、時間がゆっくりと流れる田舎での暮らし。ささやかな木造の家に住み、前の畑で自給自足の野菜を作る。近くに小川が流れ、夜は満点の星。多少の不便は覚悟の上。ときには野山を歩き、好きな趣味をやり直してみたい。

 しかし、田舎での生活は、自由気ままは許されな。田舎には、住民全員が守るべき約束ごとがある。田舎へ移り住むと決心する前に、その約束ごとは必ず守るとの覚悟が必要だ。村の約束ごとは守らない、地域の行事にも関わらず、自分流の暮らしをしていると、やがて周りから浮いた存在となり、田舎暮らしが続けられなくなる。約束ごとを守り、地域とつながる人だけが、住民として認められる。

 そこで、「都市の食を支え、自然を守る地方があるから、都市がある」、そんな田舎を誇りに思う人たちを紹介させていただきたい。まちおこしのリーダーが、都会からの移住希望者に求める「覚悟」とは何か、田舎暮らしを考えている人たちの参考になればと願う。

(写真:レンゲ畑が広がる美山町の風景)—–>
「ニッポン人・脈・記」
ふるさと元気通信⑬ 『田舎の誇り なめるなよ』
(2009年8月4日付け朝日新聞より引用)

 都会の人が「移り住みたい」といってきたら、過疎のまちはふつう、諸手をあげて歓迎するだろう。でも、京都府の美山町は違った。二十数年前、役場でまちおこしを担当していた小馬勝美(70)は、こんな条件を文書にまとめた。

 嫁さんに覚悟はあるか/集落に協力はいるか/村の共同作業をいとわない/プライバシーはないと思え/3年は我慢/農業だけでは食べていけない/現金は必要だ。この、「田舎暮らしの7カ条を受け入れる覚悟はありますか?突きつけられた都会人の大半は、おそれをなして帰っていく。覚悟がない人は、こっちから願い下げ。「田舎をなめちゃダメ、ということです」。
 
 貧しい農家の長男に生まれた子馬は、19歳で役場の職員になった。30代になり、過疎対策を練ろうと、町を出た人たちにアンケートした。こんな答えが返ってくる。「美山出身だと言いたくない」、「田舎ものと思われたくない」。小馬は、東京であった青年団の大会で、田舎者とバカにされ、言い返せなかった悔しさを思い出した。「誇りをもてる日本一の田舎づくりをしよう。昔話に出てくるようなかやぶき民家でまちおこしだ、とひらめく。

 さっそく集落で呼びかけた。貴重な財産です、みんなで残しましょう。すごい反発だった。「貧乏の象徴を残せ、というんか」。有志と一軒一軒、説得に歩く。18年がかりで、全50戸の同意をとりつけた。いまや、「かやぶきの里」は、多くの観光客を呼び込んでいる。小馬は、都会からのアイターンの受け入れにも力を入れた。

 ところが、集落から、共同作業をまったくしない、と不満の声があふれた。移住者に事情を聞くと、「なぜ、しなきゃいけないの?」。この連中、田舎をなめとるな。小馬は、知り合いの森茂明(68)に頼んだ。「いっしょに田舎暮らしの掟をつくってもらえませんか」。

 京都市内で釣具店を営んでいた森は、渓流釣りで訪ねた美山の風景にほれ込み、76年、かやぶき民家に越してきた。農業をしても、山仕事をしても、生活はカツカツ。さらに、集落の共同作業の忙しさといったら。消防団や青年団、みぞ掃除に草刈り。そんな日々の思いを小馬に語り、あの7カ条に結実させたのである。「簡単に食えるなら、過疎はない。でも、都会とは違う楽しさがあります」。

 全国の田舎を、「平成の大合併」の大波が洗う。行政の効率化、スリム化の名のもとに。美山町にも、周辺3町との合併話がもちあがった。助役を最後に、役場をやめていた小馬は、合併に反対する住民運動の先頭に立つ。

 しかし、小馬の声は届かず、06年、南丹市が誕生する。合併前、美山町は移住希望者の相談にのる第三セクターをつくった。そこでは、もうあの7カ条は使われていないが、「覚悟」は求め続けている。「食糧を供給し、国土を守る地方があるから、都市も成立する。我慢して、都会にこびず、田舎を磨くしかないんだ」。(神田誠司)