『社会のために役立ちたい』(その2) <感謝される経験は新鮮でした>

(写真は青山通りから神宮外苑まで続く銀杏並木・港区北青山2丁目)—->
2011年11月29日
『社会のために役立ちたい』(その2)
<感謝される経験は新鮮でした>
 
 光学機器メーカーの損失隠し、オーナー経営者のギャンブルで膨らんだ巨額借金で揺れる大手製紙会社など、経営陣による不祥事が問題になる度に、企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)が話題になる。
 
 財テクに失敗して抱えた有価証券の含み損を隠すための粉飾決算。そして、市場から資金を調達できる上場企業のメリットだけを享受し、会社を私物化し続けた企業体質。これらが企業の反社会的行為として問題になっている。

 企業の社会的責任とは、ただ利益を追求するだけでなく、企業としての組織活動が社会に与える影響に責任を持ち、あらゆる利害関係者(消費者、投資家、取引先、従業員、および社会全体)からの要求に対し、適切な意思決定をすることを指す。

 一方で、1995年阪神淡路大震災でボランティアの支援が相次いだのを契機に、企業の社会的責任の一環として、企業のボランティア活動が、新たな社会貢献として注目されるようになった。それまでの企業と社会、とりわけNPOとの関係は、企業が利益の一部を寄付するだけであった。た。

 さらに、2000年代に入ると、企業の社会的責任が注目されるようになり、社会貢献の在り方が見直されていく。仕事で培った専門的な知識や技能、経験やノウハウなどを持った人たちが、いろんなNPOを手伝いに行くうようになった。職場では得られない生きがいや達成感を求める人たちによる新しいボランティア活動。これがプロボノと呼ばれる社会貢献である。

 プロボノは、ただひたすらNPO活動に奉仕するだけではない。むしろ、日常の仕事にプラスになることが多い。例えば、NPOのプロジェクトに関わることで新しい人脈ができ、NPOの活動を実地で学べることも意義深い。プロジェクトを成し遂げた時、NPOスタッフからの、「ありがとう」の言葉は、NPOと関わったからこその喜びを感じるものだ。また、プロボノ同士で達成感と満足感を分かち合えるのも貴重な経験だ。

 そして、社員のプロボノを積極的に後押しすることで企業にもたらされるメリットもある。プロボノは社員の仕事に対するやる気を引き出し、人材の育成にもつながるからだ。そして、企業の社会貢献としても評価される。勤務時間内の活動を認めるなど、全社的な取り組みとして社員のプロボノ活動を支援する企業が多くなった

 そこで、プロボノによる社会貢献を企業の社会的責任の一環として位置づけ、企業の持っている人材やノウハウ、そしてネットワークなど本業を生かし、全社的な取り組みとしてプロボノを支援する企業を次に紹介させていただきたい。

(写真はNECの本社ビル・東京都港区芝5丁目)——->
『名刺をもう一枚②』
<「プロボノ」 企業も支援>
(2011年2月15日付け朝日新聞より引用)

 企業の社会貢献は、1980年代までは利益の一部を目立たぬように寄付することが中心だった。その後のボランティア活動の定着や、企業の社会的責任(CSR)への注目の高まりを受け、今は本業を生かした活動が広がっている。仕事で培った専門的な技能を生かすボランティア活動「プロボノ」の組織的な後押しもその一つだ。

 NECは昨年4月、社員向けに、「プロボノ説明会を開いた。社会貢献室の池田俊一さん(37)は集まった数十人の社員にこう呼びかけた。「社会起業家を応援する活動に、皆さんのスキルとノウハウ、そして時間を提供してもらえませんか」。

 社会起業家とは、社会の様々な課題を、政府からの補助金などに頼らず、ビジネスの手法で解決しようという人たちだ。NECは社会貢献活動の一環として、2002年から毎年、「社会起業塾」を開催。経営者が助言するなど、若者の起業を応援してきた。

 しかし、起業家の多くは実務の経験が乏しい。実際に事業を始めると、行き詰まってしまうこともある。池田さんは、「社員に力を貸してもらおう。プロボノを通じ社会的な課題に触れることは、社員自身が新しい事業を作りだす動きにもつながる」と考えた。

 説明会には、「中小企業診断士」の資格を持つ小久保和人さん(47)も出席していた。現在は、大手通信会社への営業の調整役を担っており、中小企業との縁は薄い。小久保さんは、「資格を生かせるし、前向きな人と出会えそうだ」と考え、プロボノへの参加を決めた。

 昨年7月には、様々な部署の社員7人とチームを結成。起業塾出身の川添高志さん(28)がつくったベンチャー企業、「ケアプロ」の手助けを始めた。ケアプロは、採血による格安の健康診断事業を首都圏で展開している。健診の機会が少ない人に、手軽に受診してもらうのが狙いだ。

 小久保さんらは川添さんと話し合い、健診データを整理した。診断結果に応じて医療機関の受診を促す携帯電話向けの仕組みもつくった。今年2月、NECが開いた「報告会」で、チームのメンバーは口々に語った。

 「ベンチャー企業の高い志が刺激になりました」。「仕事では成果をあげて当たり前。感謝される経験は新鮮でした」。小久保さんは、「普段は知り合えない社内外の人と出会えた。挑戦することで得られる自信と喜びを分かち合うこともできた」と振り返る。

(写真は日本IBM本社ビル・東京都中央区日本橋箱崎町)—->
 
 日本IBMもプロボノを組織的に支援している。コンサルタント業務を担う森洋子さん(32)が09年秋、社内のCSR担当者へ提案したことがきっかけだ。森さんはそれまで社外で個人的に、NPOを支援するプロボノ活動に参加していた。

 「普段の仕事では身につけにくい経営感覚を養うことができた。自分のスキルを再確認することにもつながった」。そんな体験を森さんが社内で語ると、多くの後輩社員が興味を示し、熱心に話を聞いてくれた。「若手の育成にも役立つ」。森さんはそう考え、社としてプロボノを支援することを提案。昨春には社全体の取り組みとして採用された。

 森さんの同僚、石塚優子さん(26)は、渋谷の街全体を大学のキャンパスに見立てて人や地域の魅力を学ぶNPO法人、「シブヤ大学」の経営指南に取り組んでいる。「事業全体の方向性について、NPOのトップと語り合える経験は、貴重です」と話す。社会貢献担当部長の川嶋輝彦さん(44)は、「本業を生かした社会貢献として、若手社員の能力を向上させる機会として、プロボノは大きく広がる可能性がある」とみる。

 日本経団連の2008年度調査では、企業の8割が社員のボランティア活動を支援し、うち2割は勤務時間内の活動を許可している。ゴールドマン・サックス証券やボストンコンサルティンググループは、就業時間内のプロボノ活動も認めている。会社の社会貢献として評価されるうえ、社員のやる気を引き出し、育成にもつながる。そんな狙いから、プロボノは少しずつ企業社会に浸透している。(小室浩幸)