『東京物語』 慣れないナレーター 中山婦美子

(写真)メタセコイヤの並木道・滋賀県高島市—–>
『東京物語』 慣れないナレーター(ヴェルデ・リーガたより第11号に掲載)
平成21年11月3日 中山婦美子
 平成21年は私にとって様々な役の当たり年となった。ヴェルデ・リーガに入ってまだ1年半の新参者である私に大役が廻ってきた。6月28日「水と緑のジョイントコンサート」を同じグリーンハイツの女声合唱「せせらぎ」と混声合唱「ヴェルデ・リーガ」の共催で開催した。
 私は両方のグループに属していた。お互い未知の二つのグループの仲介役として、コンサートまでもってゆく道程は、仲人役として気を揉むこともあった。プログラムの進行上、水と緑のステージ衣装を素早く着替えて歌う早業は、歌舞伎役者並みの忙しさだったが、ご来場いただいた皆様に喜んでいただいたのは何よりも嬉しかった。
 ホッとする間もなく、秋の文化祭の選曲が「東京物語」と決まり、戦後日本の復興をテーマにした曲のメドレーをナレーションで結ぶものであった。その当時を熟知している長老の私にその出番がまた廻ってきた。これは大変な役で、長年冬眠を続けた老鶯には無理だと辞退したが、つい煽てに乗ってしまった。

(写真)稲架木の並木道・新潟市秋葉区万願寺—>
 仕方なく引き受けたものの、ナレーターの言葉のイントネーション、早口で語る練習、曲間を結ぶ台詞、淡々とニュースを読むようにテンポを速く、声のトーンの上げ下げ、章節の始め終わりのタイム、曲想によってはアナウンサーになり、弁士のように艶っぽく等々注文は多い。
 何度も「もうダメ!」と匙を投げたかったが、9月は「たすけあい部会」の「ほほえみサロン」、10月には「すみれ会」、秋のグリーンフェスタと出演が決まっていて、もはや迷っている時間はなく、開き直って覚悟を決めた。
 福祉活動「たすけあい部会」の演奏会では私と同様、戦中戦後を生き抜いてこられた方々が「懐かしくて涙が出ました」と感激してくださり、文化祭では、「混声合唱とナレーションが素晴らしく、感動しました」と握手してくださった。森本先生のご指導とヴェルデ・リーガの混声合唱の賜物であると感謝している。
 私自身、空から焼夷弾が降ってくる闇夜の中を逃げ惑い、母も家も失った体験を思い出し、感無量になった。様々な苦しみを乗り越えて齢を重ねた自分自身が、こんな平和の中でまだ歩くことができること、友人に恵まれコーラスや趣味に、至福の日々に感謝。