第9回日本認知症予防学会学術集会一般の部口演報告

認知症の改善を願って私が活動を始めたのは、介護保険が制定される前、当時「痴呆」と呼ばれて、福祉からも医療からも閉め出されていた昭和の時代に、妹と二人で実母の在宅介護をし、介護殺人コースに入ったか、というような体験をしたことに依ります。
 
タイトルに「みんなの」とつけているのは、認知症当事者も健常者も、諸共に、同時に、という共生、共生きの願いからです。認知症予防教室は、認知レベル混在のままで行なって、共生社会の構築を目指しているのです。

私が、「地域包括支援センター」主催による、「頭いきいき教室」で、月1回の教室を担当させていただいた中での体験ですが、65歳以上ほぼ30人の中に、3人、1割ですね。認知症当事者が参加されていました。「みんなの認知症予防ゲーム」では、椅子を丸く一つの輪に並べます。皆の顔が互いに見えます。皆で童謡や昔の小学唱歌を歌いながら、手をグーやパーに動かす、いわゆる高齢者レクリエーションの、体を動かすゲームです。歌いながら指を屈伸させる等という二つのことが、3人には出来なかったのです。

若年から認知症になられた方は、流行歌などは驚くほど上手に歌われますが、童謡などの簡単な歌を歌いながら手や指を動かす、という二つの異なることを同時に行う、それが、難しいのです。
それを見た9割ほどの人たちが興ざめして、自然に冷たい目を向けられます。当事者の方は、その雰囲気を敏感に感じられるので、まるでイジメのようです。みんなが同時に楽しめる方法は無いのか?

そこで私は、日本の古典の音楽劇「能楽」の小鼓の奏法を援用してみました。すると、全員がもろともに、一度に笑顔になられました。

これだ! 小さいけれど、まさに共生社会の実現だ、と思いました。鼓の奏法とは、楽器の発する音と同時に「かけ声」が生命とも言える特性を持つ音楽です。
「かけ声」は肉声ですから、声に気を籠めて、静かにも、場面の急転開への変化も、舞台の後座、後ろの方に座ったままで、リード、あたかもコンダクターのような役目を担っています。
この小鼓の奏法を参考にして、三つの方法を考えて、ゲームに取り入れました。

 1の、5段階加速法とは、「どんぐりコロコロ」の歌の前奏段階で、加速を5段階に意識して進めます。 2の、ロボット方式とは、「お手玉廻し」のゲームの導入部分で、右隣の人にお手玉を渡す動きを区切って、ロボットのようにギクシャクさせます。 3の、ツーセット方式は、同じテンポで2回ずつ繰り返して、言い換えや加速をして、速度の切り替えが小さな刺激になるように、その変化を意図的に行います。

 この結果ですね。健常者は即座に「楽しさ倍増」とばかりに喜ばれました。
 発症者は、自然にリズムに乗れるようになられ、自然に柔和な笑顔になられました。それだけでなく、パーの指が蕾のように「固まっていた」のですが、指先が伸びて開くようになったのです。それを見た時は、閉塞状態の心が開いたかのようで、危うく涙が出そうに嬉しくなりました。

 社会生活上の変化としては、認知症当事者が予防教室に来られた時に、自ら挨拶をされるように明るく変化。
簡易テストではパーフェクトに答えられる。
他所のイベント会場で偶然出会ったときには私を見つけて、自分から声をかけて下さる。これがあの暗い表情だった同じ人かと、目を見張る思いでした。

「みんなの認知症予防ゲーム」は、この三つの技法が特徴です。

この三つの技法は、決して難しいものではありません。一度でマスターでき、誰でも、どこでも活用していただける方法です。
これを全国的に採用していただくならば、共生社会への道筋がつくのではないかと、示唆されていると考えます。このゲームのリーダーさんが日本中に大勢増えて、コンビニの数ほど「みんなの認知症予防教室」が誕生することを願って、地味な活動を続けています。

以上で、終わります。

口演の最後、質疑応答の時間に。
認知度のレベル混在型の教室に於きましては、混じっておられる3人の方へのリーダーの関わり方、ものの言いかた、などを、多くの健常者が間近に見られることによって、自然に優しい物言い、関わり方が出来るように変わって行かれたのです。こういうことが、現場での社会教育の実践ではないかと、考えています。

2019年10月19日(土)口演31−4 予防活動(介入効果)
「みんなの認知症予防ゲーム」に依るリズム感の回復
=認知症の予防と引き戻し=