今月の一冊 大塚啓次郎、櫻井武司編

今月の一冊
話題の本や論文について紹介するレポートです。

『貧困と経済発展 アジアの経験とアフリカの現状』
大塚啓次郎、櫻井武司編
出版:東洋経済新報社(2007/11)

 本書は、19世紀後半に急成長を遂げたアジアの国々における経験を、今なお貧困に喘ぐアフリカの発展にいかに適応すべきか、というモチベーションでまとめられています。特筆すべきは、本書は農業が貧困削減に果たした役割を見直している点です。具体的には家計所得に焦点をあて、農業収入の増加が非農業への就業構造に変化をもたらすことにより、結果として人的資本(教育)への投資が増大していく、というメカニズムを分析しています。また、人的資本の役割、またそれに家計所得から投資をする際の決定要因についても分析を加えています。
 ほぼ全てがデータ分析をもとにした実証研究で、専門的な手法や数値の扱いも含んでいますが、専門知識なしに論説部分を読むだけでも、十分説得力があります。また約20ページにわたる序章は、本書の概要がかなりしっかりまとまっていますので、是非一度お手に取られることをお勧めします。