「新型出生前検査 実施施設拡大と課題」

妊娠している女性のおなかの赤ちゃんの染色体の数に異常がないかどうかを調べる「新型出生前検査」について、日本産科婦人科学会は2019年3月2日、検査を実施する施設を増やすよう指針を見直すことを決めました。
新型出生前検査は、2013年、日本産科婦人科学会が指針をつくって始めました。
検査の目的は、▽おなかの赤ちゃんの状態を知ること、▽仮に異常が見つかった場合は、出産直後から生まれてきた赤ちゃんに適切な治療ができるようにする、というものです。

この検査には、当初からいくつかの懸念が指摘されていました。
ひとつは、簡単な検査であるために、安易な考えで検査を受けることにつながらないかという点です。特に結果が陽性だった場合、おなかの赤ちゃんにどう向き合うのか、重い決断を迫られることになります。

学会は、6年前、検査についてのルールである「指針」をつくりました。
実施する医療機関の条件を定め、限定しました。具体的には、適切なカウンセリングが行える常勤の産婦人科や小児科の専門医がいることを条件にし、医師以外の遺伝カウンセラーも求めています。
検査を受ける女性については、過去の出産の経過、あるいは35歳以上などを条件としました。
厚生労働省は「この指針が尊重される必要がある」という見解を示していますが、現実にはそうなっていません。
学会の認定を受けていないクリニックなどで検査が行われているのです。出生前の検査は、認定外の施設が実施しても、法律に違反するものではありません。

学会の認定施設では、2018年9月までの5年半の間に6万5000人あまりが検査を受けました。このうち、染色体に異常があることがわかったケースは、886人です。妊娠を継続したケースは36人、一方で中絶を選択した人は、819人でした。
それぞれが、周りでは想像できない重い決断をしたもので、その判断は尊重されなければなりません。

しかし、これだけ多くが中絶を選択している現実を、どう考えればいいのでしょうか。
日本では、出産年齢が高くなっています。それに伴い、染色体の異常を心配して、検査を受けようとする人、あるいは周囲の家族などが検査を勧めるようなケースが、増えてくることも考えられます。
そうした中で、これまでのような学会の議論だけで、果たして十分なのでしょうか。
(時論公論)http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/315576.html

◆日本産科婦人科学会
http://www.jsog.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=1

◆母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針(案)https://fyu.cdn.msgs.jp/fyhu/fyu/shishin2019.pdf