<トルクメニスタン>大統領、アメとムチで独裁維持

豊富な天然資源を持つ一方で、強権的で閉鎖的な政治体制を敷き、「中央アジアの北朝鮮」とも呼ばれる旧ソ連のトルクメニスタン。昨年再選されたベルディムハメドフ大統領(56)は「アメとムチ」を使い分け、国内統治を固めている。8月末に訪れた現地で現状に迫った。【アシガバートで大前仁】

 ◇国際人権団体「最も抑圧的な国の一つ」

 首都アシガバート各地には大統領の巨大な写真が掲げられている。夕方を迎えた市中心部では、運動着の若者たちがイスラム教の象徴である緑色に塗られた「おそろいの自転車」をこいでいた。9月1日に「自転車マラソン」が開かれたことから直前の練習に励んでいたのだという。

 大統領は昨年、「健康のため」と国民にサイクリングを奨励。その結果、多くの家庭が1台約500マナト(約1万7200円)の自転車を購入し、サイクリングが国民的な「趣味」に浮上した。

 独裁者といわれたニヤゾフ初代大統領が2006年に死去。ベルディムハメドフ氏が07年に後継に就いた直後には、「改革」への期待も流れた。しかし昨年2月の大統領選では「公正な選挙の条件が整っていない」(全欧安保協力機構)と批判される中、ベルディムハメドフ氏が97%の得票率で再選された。

 国民の大多数は不敬罪を恐れ、指導部批判を口にしない。アシガバート中心部の「ロシア市場」で働く女性のソンニャさん(61)に対し、大統領について尋ねると、「オーケー」と答えるだけだった。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは「独立したメディアも調査機関もない。世界で最も抑圧的な国の一つ」と厳しい評価を下す。

 ただ、交流サイト「フェイスブック」などは接続が制限されているうえ、高い接続料金がかかるがインターネットは利用可能だ。衛星放送も機材をそろえれば、米CNNなどを含め、数百以上のチャンネルを無料で見られる。北朝鮮のように情報が徹底して遮断されているわけではない。

 天然ガス埋蔵量世界4位のトルクメンは、潤沢な「資源マネー」を使い、巨大な記念物やインフラを次々と建ててきた。アシガバート中心部から南方7〜8キロの地域では、07年から「新都市」の建設が続く。1年前に170平方メートルのマンションの一室を購入し、家族4人で移り住んだ30歳の女性は「全てが最新だから、住み心地がよい」と話す。

 トルクメンでは電気、水道、ガスなども全て無料だ。政府当局者は「いきなり市場経済や民主主義を導入すると危険」と主張。民主化運動「アラブの春」の結果、リビアなど中東各地で混乱が続く例を取り上げ、「我が国では戦争が起きていない」と胸を張った。