第1回 児童館の中の「つどいの広場」

【久しぶりの天草へ】
 天草の入口にあたる熊本県本渡市(ほんどし)にある「わくわく本渡児童館」に行ってきました。7〜8年前にも天草に行く機会がありましたが、この時は、熊本空港から路線バスで3〜4時間をかけて行った記憶があります。東京〜熊本が1時間半程度ですから、その倍もかかっていたのです。今回は、数年前に天草空港ができたために、福岡空港を経由して行くことができました。羽田空港を朝一番の便に乗ると、なんと午前中には天草に到着することができます。本当に便利になったと感動しました。
 本渡市は、もうすぐ近隣の市町村と合併して天草市となりますが、現在の人口は4万人程度で、児童館・児童センターが市内に5館あります。その中で最も新しい児童館「わくわく本渡児童館」は、平成16年4月にオープンしました。内装は木材が生かされ、明るい日差しが館内を隅々まで照らす開放的な雰囲気で、芝生の庭もあるとても素敵な児童館です。この「わくわく本渡児童館」では、一般の子どもたちの受け入れと併せて、放課後児童クラブ事業と、つどいの広場事業も行っています。

【つどいの広場事業】
 つどいの広場事業は、平成14年度から厚生労働省の補助事業として実施されています。財団法人こども未来財団が運営しているi-kosodate.net(http://www.i-kosodate.net/)によると、以下の様になっています。

主旨
近年の少子化、核家族化の進行に伴う家族形態の変化や、都市化の進展に伴う近隣との人間関係の希薄化により、子育て中の親が、子育てや育児について気軽に相談できる相手や仲間が身近な地域にいないなど、家庭や地域における子育て支援機能の低下が問題となっている。また、その影響で子育て中の親には、「密室育児」による孤立感、閉塞感をもたらし、子育てへの不安や精神的負担感を増大させており、その結果、我が子を虐待に至らしめるケースにもつながりかねないなど、子育てへの負担感の解消を図ることが喫緊の課題となっている。
 このため、主に乳幼児(0〜3歳)をもつ子育て中の親が気軽に集い、うち解けた雰囲気の中で語り合うことで、精神的な安心感をもたらし、問題解決への糸口となる機会を提供することが必要であることから、その機能を有する「つどいの広場」事業を新たに創設するものである。

事業内容
つどいの広場においては、次の4事業を実施。
①子育て親子の交流、集いの場を提供すること。
②子育てアドバイザーが、子育て・悩み相談に応じること。
③地域の子育て関連情報を、集まってきた親子に提供すること。
④子育て及び子育て支援に関する講習を実施すること。

実施方法
①実施場所は、主に公共施設内のスペース、商店街の空き店舗、公民館、学校の余裕教室、子育て支援のための拠点施設、マンション・アパートの一室など
②事業の実施は、週3日以上行うことを原則とする。
③茶菓代などは、利用者から実費を徴収する。

このホームページの情報だと、つどいの広場は、全国でも154箇所、東京都には2つの広場しかありませんから、みなさんには、まだ身近な施設ではないかもしれません。しかし、厚生労働省の計画では1万箇所まで増やすと言っていますから、将来的にはコンビニのように身近な施設になるかもしれません。
 この「つどいの広場」は、基本的には市町村の事業として実施していますが、実際の管理運営については様々です。市町村が直接設立し、直接運営している公設公営の広場もありますが、NPO法人などが設立、運営している民設民営、そして、公設の施設をNPO法人などが運営する公設民営のものとさまざまです。また、今回のように児童館の一室だったり、一軒家だったり本当に多種多様です。
 「わくわく本渡児童館」では、公設公営のつどいの広場「とことこ」を月・火・水・金曜日の10時〜15時に行っています。

【つどいの広場 とことこ】
 「とことこ」には、子育てアドバイザーが1人いますが、基本的には親子が自分たちで、自分たちのペースで遊んだり、情報交換をしたりする、親子の交流の場です。一応登録制にしていますが、「とことこ」のやっている日に、自分の好きな時間に来て、自分の好きな時間に帰ることができます。登録をしているのは、300組を少し越えるくらいだそうです。
 10時を過ぎると、「こんにちは」と親子がやってきます。受付を済ませると、玩具をだしたりして自分たちのペースで遊んでいます。親子がたくさん集まってきた11時過ぎには、「とことこ」唯一のプログラムが始まります。子育てアドバイザーが、子どもとお母さんの名前を呼んで返事をしてもらう「お返事タイム」です。みんなが顔馴染みになり、友だちになってもらいたいと実施しているそうです。そして、「お返事タイム」の後は、簡単な手遊びで遊びます。この時間はわずか5分程度。あくまでも自分たちで遊ぶことを大切にしています。

【親同士の交流をつなぐ役割】
 子育てアドバイザーに、七五三のことを聞いているお母さんがいました。この地域に引っ越してきたりしてくると、地域のしきたりや伝統など分からないことだらけです。子育てアドバイザーはすかさず、「去年、七五三をやった人はいますか?去年の様子を教えてあげてくれない」。すると二人のお母さんが「こんな風にやりました。着物はここで借りて、ここで写真をとって…」というように、アドバイスしてくれ、その後は、3人でじっくりと話し込んでいました。
 つどいの広場の大切なことは、親同士の交流ですから、子育てアドバイザーが何でも答えてあげるのではなく、親と親をつなぐことが大切になってきます。

【児童館の子育て支援とつどいの広場事業】
 本来、児童館は0歳〜18歳を対象とした施設であり、乳幼児と親、中・高校生への対応は重点課題にもなっています。こうした、児童館の中に、つどいの広場を設けることには、少し疑問を持っていました。
 実際に、本渡市の児童センターでも、つどいの広場の前は、「親子教室」的な子育て支援プログラムを実施していたそうです。つどいの広場が始まった時には、参加者からもいろいろと疑問の声が起きたそうです。今までは、先生がいて、遊びの準備をしてくれていて、時には子どもたちを先生に任せて遊んでもらっていたのに…、つどいの広場では「自分で遊びなさい」。つどいの広場が浸透していくのにはかなり時間がかかったそうです。
 つどいの広場が児童館に併設されているメリットとしては、①つどいの広場がやっていない、木・土・日曜日にも児童館に気軽に遊びにこられる、②子育てアドバイザーが、他の児童館スタッフと相談をしたり、アドバイスをもらうことができる、③つどいの広場で、夏休みに高校生ボランティアを受け入れたため、児童館と高校生との交流も始まったそうです。つどいの広場が、地域の人と人とをつなぐ役割をしているのです。つどいの広場があることによって、児童館そのものも活性化していると感じました。

 これで第1回目は終了です。いかがでしたでしょうか。第2回は、石川県金沢市のつどいの広場を紹介したいと思います。金沢市では、4つのつどいの広場がありますが、この中でも任意団体である「子育て生活応援団」の運営している広場を紹介したいと思います。