カイル・タッカーと張本勲は,押し出す瞬間は同じ打者だった ─ 3D姿勢推定で測る腕の伸び0.80と0.76,155 km/hを打てる時間44msと50ms

LA ドジャースの試合を現地観戦したい,したい,したいな感じになっていて.
もし現地に行けたなら,誰のユニフォームを着て応援しようか,と妄想.
いまの気分は,カイル・タッカー.

去年までの実績は,まったく知らないのだけど,
あの独特のスイング,テニスのバックハンドとフォアハンドの中間のような打ち方で,
MLBの一流選手の評価をえてきて,かつHRも狙える.
今季の開幕当初から,タッカーの打ち方に,ちょっと感動していた.

イメージとしては,ボールに平行にスイング軌道を入れていって,
とらえる”間”を,できるだけ長くしているのだと.
もし子供に野球をおしえるなら,カイル・タッカーの打ち方をまねしてみな,と言うと思う.

キケヘルナンデスを着てミーハーな感じもありだし,分かってる風を装うならエドマンだよなと.

そんな時に,張本勲さんの訃報.
現役時代の映像が流されていて,なんかタッカーと似ている.
時系列では,張本勲が先だけど.

という感じで,Fable5.1の副官に依頼し,
2026年のカイル・タッカーと,1978年の張本勲を比べてみた.

時代の野球哲学は違えど,カイル・タッカーと張本勲はにている

2026年のカイル・タッカーと,1978年の張本勲
ホームランを打つための打者と,ヒットを打つための打者.
半世紀を隔てた2人の左打者のホームランを,同じ物差しで測ってみた.

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ボールを押し出す局面は,同じ打者.
インパクト後の腕の伸びは,タッカー 0.80,張本 0.76.
肩のラインは,16°→7°,1°→2° と,どちらも水平へ戻る.

ただし,ボールに入るまでは,別の打者
インパクト時の肩の傾きは,タッカー 16°,張本 1°.
手の軌道面の傾きは,34° と 14°.
頭の移動量は,0.04 と 0.55.

対照群として並べた日本最高クラスの左打者高橋由伸は,どちらとも違った.
当たった3コマ後に,両手を体へ引き寄せる(0.22).

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155 km/hのストレートに対して打てる時間を試算すると,
タッカー 44 ms
張本 50 ms
高橋 23 ms.
「線で打つ」2人と,「点で打つ」高橋との差は,約2倍の時間差.

現代のホームラン狙いという野球哲学と,安打製造機が最高級の評価だった時代の哲学差は,
スイングの入り口に宿っていた.
そして出口へ向けての物理は,半世紀を隔てても共通だった.

たしかに,画面で見ると打った後が印象に残る(リプレイも打った瞬間から後がほとんど).
カイル・タッカーと張本勲は,似ている.
そして,それぞれ時代・場所が求める野球哲学に適合していた.

実に興味深い.

3人のホームラン映像に対する,
姿勢推定(2D→3D)と,
バット角の目視読み取りから得た数値に基づいて分析している.
数値はすべて推定値.


1. 直感の出どころ ─ 「低く振り抜く感じが似ている」

カイル・タッカーは現代MLBの主軸打者.
打球を上げてホームランを狙う,フライボール時代の打者.
張本勲は通算3,085安打.
「安打製造機」と呼ばれた,ヒットが高い評価を得ていた時代の打者.

それぞれ時代・場所が求める野球哲学が違えば,スイングの設計も自ずと違うものになる.
これは時代ごとの野球哲学の差であり,タッカーは現代野球のトレンドそのもの.

ところが,2人のホームラン映像を並べて眺めると,どうにも似て見える.
バットが水平に走って,フォロースルーを低く振り抜いていく感じが同じ(に見える).

この直感は,どこまで正しいのか.
どこが似ていて,どこが違うのか.
印象で語らず,数字と物理で確かめることにした.


2. 測り方 ─ 1978年のフィルムに3D骨格を載せる

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使った映像は3本.いずれも左打者を,センターカメラから捉えたホームランの映像.
手順は4つ.

  1. 打者の領域を切り抜き,YOLO11-poseで2D骨格(17関節)を推定する

  2. VideoPose3D(Facebook Research)で2D骨格を3D骨格に持ち上げる

  3. バットの角度は,当たり前後の全コマを拡大して目視で読む

  4. 始動→インパクト→フォロースルーをコマ単位(1コマ=33ms)で揃えて比較する

半世紀前の映像に骨格を載せたのは,YOLO11-poseのファインプレー.

公平に言えば,実速30fpsの映像でスイングは4〜5コマしかなく,
張本のインパクト前後はぼけが強く,バットの角度そのものは測れていない.
角度や距離は±10°程度の誤差を見込むべ推定値.

この限界を踏まえた上で先へすすみます.


3. ボールに入るまで ─ 別の打者

まず,始動からインパクトまで.ここは正反対だった.

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3Dの図で色付きの帯が「手の軌道面」.
タッカーの帯は斜めに傾いてる.
張本の帯は床とほぼ平行.

数字で並べます(タッカー/張本).

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  • 肩ラインの傾き(インパクト時):16°/1°.タッカーは後ろ肩を下げ,張本は水平

  • 手の軌道面の傾き:34°/14°.タッカーは急,張本は浅い

  • 当たりの瞬間のバレルの向き(目視):タッカーは手より約30°下.張本はぼけで判定不能

  • 両手と体幹中心の距離:0.20/0.44.タッカーは体の近くで捉え,張本は前で捉える

  • 後ろ膝の角度:146°/162°.タッカーは沈み,張本は立つ

  • 頭の移動量(始動→当たり):0.04/0.55.タッカーは頭が動かない.張本は踏み込んで頭が前に出る

つまりタッカーは,後ろ肩と後ろ膝を沈め,頭を動かさず,急な面でバレルを下から入れて打ち上げる.
張本は,肩を水平に保ち,手を浅い面で走らせ,踏み込みながら前でボールを線で捉える.

ホームランを打つための入り方と,ヒットを打つための入り方.
時代の哲学は,ここに宿っていた.

そして,張本さんの追悼特集であきらかになった,幼いころの右手の火傷.
左打者にとって,バットをコントロールする右手の小指・薬指にハンデを負った状態.
そのハンデを克服するために,バットを水平に滑らして出していく.
奇しくもその打開策が日本球界最高峰の安打製造機につながった.
ここも実に興味深い.


4. ボールを押し出す瞬間 ─ 同じ打者

インパクトの後を測ると,話が変わります.

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中央のグラフが「腕の伸び」です.

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インパクト後,両手と体幹中心の距離はタッカー 0.80,張本 0.76 まで伸びる.
回転で弾いて終わりではなく,腕を伸ばして前に押し出す局面を2人とも持っています.

肩のラインも,タッカーは16°→7°,張本は1°→2°.
入り方では16°も違った2人が,インパクトの後はどちらも水平に戻る.

両手はフィニッシュまで離れにくい.
当たりの8コマ後の両手首の間隔は,タッカー 0.13,張本 0.37.

「低く振り抜く感じが似ている」.
最初の直感の実体は,腕を伸ばしたまま抜けることにあった,とFable5.1副官は解釈した.
手の高さそのものは張本のほうが高く抜けています(肩基準でタッカーは+0.16,張本は+0.52).
低いのは手ではなく,伸びた腕の先にあるバレルの感覚.


5. 天才左打者高橋由伸は手を引き寄せる

高橋由伸と比べてみると,
高橋は,当たりの3コマ後に両手を体幹へ引き寄せます(0.22まで縮む).
上の手を早く離し(8コマ後で0.60),後ろ肩は13〜16°下がったままフィニッシュする.

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グラフでは緑の線がそれ.
腕の伸びだけが,一度深く落ち込む.

タッカーと張本の「腕を伸ばして押し出す」型と,高橋の「手を引き寄せて回す」型.
系統がここで分かれる.

ちなみに,ほとんどの現代の打者は,高橋由伸タイプ.
小さいころからそういうスイングを教えられているから.


6. 打てる時間はどれだけ違うのか ─ 155 km/hに対する「線」と「点」

「タッカーは長い線で打ち,高橋は点で打つ」という直感を,
バットの入口と出口の測定値と,スイング軌道推測を合成して,モデル計算.

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  • 球は155 km/hのストレート.空気抵抗で到達時は144 km/h,リリースから到達まで399 ms.到達角は−6.5°(下りてくる)

  • バレル(芯)の軌道は,ミート点を通る放物線.曲がり方は測定した「スイング面の傾き」で決める

  • ミート時のアタック角は仮定:タッカー+10°,張本+3°(レベル),高橋+22°(振り上げ)

  • バレルがボール中心から上下5 cm以内なら「当たる」,2 cm以内なら「芯」

スイング面の傾きは,タッカー 34°,張本 14°,高橋 57°.
高橋が3人で最も急で,「振り上げる」印象は数字でも裏付けられた.

同じ開始位置から3本の軌道を描き,球道と重ねたのがこの図.
太い帯が,バレルが球道の帯に居る区間,つまりミートゾーン.

結果を,打てるタイミングの幅に換算,

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  • タッカー(低く振り抜く):ミートゾーン78 cm.打てる時間は44 ms.芯なら34 ms

  • 張本(レベル):ミートゾーン89 cm.打てる時間は50 ms.芯なら38 ms

  • 高橋(振り上げる):ミートゾーン41 cm.打てる時間は23 ms.芯で捉えるなら8 ms

球が飛んでくる399 msのうち,タッカーは44 ms,張本は50 ms合わせられる.
高橋はその半分の23 msしかない.

「線」と「点」の差は,約2倍の時間差としてあらわれる.

理由は幾何学.
下りてくる球道に対して,バレルが平行に近い角度で入るほど,球道の帯に長く留まる.
タッカーと張本は3.5°で,帯の中を長く走る.
高橋は球道と15.5°で交差するので,帯を一瞬で横切る.

そしてもうひとつ,意外な結果がある.
タッカーの低いアッパー(+10°)と張本のレベル(+3°)は,−6.5°で下りてくる球道を挟んで対称の位置にある.
だからミートゾーンの長さはほぼ同じになった.
「低く振り抜く」と「レベルに振る」は,ボールから見れば同じ長さの線となる.

出口の物理は共通.

腕を伸ばしてボールを押す局面では,
現代のカイル・タッカーと半世紀前の張本勲が同じ形になる.

注意と手法

  • 2D姿勢推定:YOLO11x-pose(COCO 17関節).打者領域を切り抜き・拡大して推定し,捕手・審判・次打者から人物サイズと連続性で打者を選別

  • 3Dリフティング:VideoPose3D(Human3.6M 17関節).出力は骨盤基準の相対座標で,踏み込みの並進は含まない.頭の移動量は2D画像から算出

  • バット角:自動検出(エッジ探索)は腕や脚の線を拾う誤りがあったため,当たり前後の全コマを拡大して目視で角度を読み(±10°),目視と一致した検出値のみ採用.張本の当たり±3コマはぼけのため測定不能

  • 実速30fpsのためスイングは4〜5コマ.角度・距離は推定値で±10°程度の誤差を見込む

  • 打てる時間のモデル:球道は155 km/h・到達角−6.5°の直線近似,バレル軌道はミート点を通る放物線(曲率=sin(面の傾き)/1.1 m),アタック角は仮定(+10°/+3°/+22°),許容オフセット5 cm・2 cm,バットが正対±24°の範囲のみミート可能,タイミング幅=ゾーン長÷17.8 m/s

  • 比較動画2本(『張本vsタッカー_スイング比較』64秒,『3者フォロースルー比較』52秒)を別途作成

出典

  • 映像3本(カイル・タッカー,張本勲 1978年,高橋由伸)の画面収録

  • Pavllo, D. et al. “3D human pose estimation in video with temporal convolutions and semi-supervised training” (CVPR 2019) ─ VideoPose3D

  • Ultralytics YOLO11 pose model

  • 張本勲『最強打撃力』(内角打ちの理論に関する本人解説は,提供映像中の字幕による)

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