紛争地から見えてくるもの ジャーナリスト玉本英子さんに聞く(2)

川西市男女共同参画センターのnewsletter
HOPP vol.14の記事。
紙面には載せられなかったエピソードも含めて
ロングバージョンでご紹介します。

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イラク・クルディスタン治安当局に拘束された「イスラム国」元戦闘員のモハメッド・イブラヒム(30)。2人の兄はアルカイダ系組織に所属、米軍とイラク軍に殺害された。その恨みや貧困から、彼はISに志願した。(2015)

2014年、ISはイラク北西部に住む少数宗教ヤズディの人びとを弾圧。住民が虐殺され、数千人の女性が拉致されて奴隷として売られた。玉本さんも被害の実態を取材。多くの友人やその家族が殺害されたり、避難民になったりしていた。

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ISが去ったイラク北部のモスル市内。ISの教育を恐れ、子どもたちの多くは学校へ行かなかった(2017年)

◆被害者が加害者になる構図
 
戦争や紛争地で学んだのは、加害者と言われる人たちは実は被害者だったことです。たとえばISはイラクのヤズディ教徒を殺したり性奴隷にしたりして迫害しています。でもIS の戦闘員も数ヶ月前までは、お母さんが拷問されたなどの恨みを持っている、あるいは家族を養わなければならないなど、普通の一般市民で、弱者なのです。そういう部分をきちっと見ていくために、分け隔てのない取材を心がけています。
大国が武器を売ってその国を利用しているという見方もあります。それは事実ですが、その視点だけで傍観者として見ていると問題が他人ごとになってしまう。私はそれが一番怖い。「自分たちも加害者になり得る」ということを、私たちがいかに認識するかが大事だと思っています。

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10万人近くいたコバニの住民の多くは国境を越えトルコに避難したが、2,000人あまりが残っていた。砲弾が撃ち込まれるため、家の窓はブロックでふさがれた。電気も水道も止まり、住民は地元組織のわずかな配給で命をつないでいた。小型のコンロでお茶を入れる住民。(2014)

◆大事なのは「能力」より「気持ち」

–好きな仕事を続けるために必要なことは?
 やっぱり経済的なことは大きいと思います。私が若かった時代は景気が良かった。今日本では貧困家庭が増えているし、何か始めようとしても難しいことがあるかもしれません。ただ、「もうだめだ」「この年齢だから」と、すぐにあきらめるのはもったいない。
 大学で教えるときには、めざす企業に就職できないという学生にいつも言うんです。今チャレンジしてだめでも、いつかチャンスが巡ってくる。

(3)に続く