3月度 第58回コラボ大学校

3月度 第58回コラボ大学校を開催しました。

開 催:3月14日(土) 14:00〜16:15
テーマ:『風を観る』−「世界をさわる」冒険が「知のバリアフリー」をもたらすー
話し手:民俗学博物館 准教授・全盲 広瀬浩二郎さん
当日は朝から雨が降り、テーマが地味なこともあって、出足が心配でしたが、午後には雨が上がり、45名と多くの方々に来場してもらました。
広瀬さんは、現在は民博の研究者ですが、中学生のころ全盲になり、色々な苦労や障がいにぶち当たって来られました。しかし、障がいを一つひとつ乗り越え、常に明るく、何事にも挑戦しようという前向きの姿勢で研究活動をされている方です。以下のような講話を伺いました。
 
民博内やその他で、研究成果の展示会や、シンポジュームを開催している。それらのチラシづくりでも一苦労も二苦労もある。墨字で書ける文字数に比較して、点字は数分の1しか書けないので、1枚のチラシに何を、どれだけ、どの様に伝えるかに常に悩む。最近は、アクリル樹脂を用いて、点字部分が盛り上がる印刷もできるが、当然コスト問題も絡む。

著書も何冊も出版しているが、表紙の装丁にも同様の苦労があり、点字でどの様にアピールするか色々と苦労しながら工夫を重ねて居る。

職場が、民族学の博物館なので、部屋に閉じこもっては仕事にはならず、研究調査のため国内はもとより、海外にも一人で出かけることが多い。研究者になった当初は、社会の仕組みが整っていなかったので移動に苦労した。最近は障がい者に対する周囲の意識や、社会の体制が整ってきたので、駅や空港の職員に案内をお願いして、無事目的地に着くことができる。海外に比べ日本は、よく整備された国なので、もっと宣伝すれば良いのに。千里中央も整備が進んでいる街だ。

現在は、障がい者対策がなされているが、昔は点字ブロックも、柵もなかったので、家にじっとしていたかと言えばそうではない。道を歩いている際に、よく転落死したということが分る地名も残っている。昔の全盲者はどのようにして移動したのだろう。推論だが、周囲の人がかなりサポートしたのであろう。目の見えない人は、特別の能力が備わっていて、別の何かを感じる能力があると、畏敬の念を抱いたり、信仰の対象として見られていたこと。

不自由な人を助けると言うことは、仏の御心に沿い、功徳になるという教えも浸透していたからと思われる。昔、旅をつづけながら仕事をしていた人たちに、琵琶法師と瞽女(ごぜ)が居る。

 平家物語は当初琵琶法師により伝えられていた物語である。平家の亡者を相手に琵琶で語った耳なし芳一の話は有名で、よく御存じの話である。琵琶の演奏がどのようなものか、今井勉さん演奏のCDで、平家物語「那須与一の段」の一部を再生。自分が初めて聞いたときは、非常にスローテンポなので、余り共感を覚えなかった。しかし、何度も聞いている内に、ユックリと語らねばならないのだと分かった。口頭だけで情報を伝えるということは、聞き手にとっては、聞きながらその情景を頭に描く時間が必要だということである。那須与一の場面は、平家の女御の色鮮やかな衣装、金色の扇、海の青、与一の黒装束と非常に色彩豊かな場面である。琵琶法師(自分は色が見えないのに)は、語りだけで鮮やかな絵巻もののような情景を、聞き手に思い浮かばせるのである。

 瞽女の唄うストーリーについても、仏教の説話や“親子の別れ”だとか、さびしく、もの悲しいものが多い。しかし、瞽女自身もそのような人生を送っていると、一方的な同情だけで理解するのは、誤解につながる。苦労の中にも楽しい生活もあった。

唄の中にも楽しい唄もあるし、滑稽、軽妙な掛け合い万歳もある。74年の東京でのライブの収録で(女性)伊平イセさんと(男性)朝比奈さんの万歳の一部をCDで再生。いずれも後継者が居なくなり、残されているのはCDだけとなってしまったのは残念だ。

 人は誰しも何らかのハンディを意識しながら生きているもので、広瀬さんのハンディを逆手に取って、あたかも楽しむような生き方に、大いに学ぶところがあったのではなかろうか。また、昔の全盲者の活動の歴史・文化の研究についても、全盲者だからこその考察も新鮮であった。従来の発想では分かりえない違った角度から、色々な観点に気づかされた意義ある講演であった。

次回コラボ大学校
日 時:4月11日(土) 14時〜16時15分
テーマ:NHKドラマ「サイレントプア」の生まれた町 〜豊中の地域福祉〜
語り手:社会福祉協議会 CSW 勝部麗子さん
申込み:3月23日から コラボ事務所にて
 (文責 濱崎定也)