花組春野寿美礼さよなら公演「アデュー・マルセイユ−マルセイユへ愛を込めて−/ラブ・シンフォニー」

「アデュー・マルセイユ−マルセイユへ愛を込めて−/ラブ・シンフォニー」

この公演は花組主演男役春野寿美礼さん(おささん)のサヨナラ公演です。
昨年の9月21日(金)〜10月29日(月) 宝塚大劇場で
11月16日(金)〜12月24日(月) 東京宝塚劇場で公演されました。
私はムラと東宝の両劇場で4回観劇しました。

「アデュー・マルセイユ−マルセイユへ愛を込めて−」は
おささんの宝塚での歴史そのものですね。

おささんは今、研17(音楽学校を卒業して17年目)。
ジョジョの自分ではない14年間って
おささんが94年の「ブラック・ジャック 危険な賭け」の新人公演で
本公演の同じ役を演じている上級生から怒られ、
男役を究めようと決意してからの時間と同じですね。
その時から、おささんはおささんであることを止め、
宝塚の男役であることを常に意識しはじめたのです。

ジョジョも同じですね。
彼の仕事もこの世から存在をなくし、
他人になりすます仕事です。
そして、ジョジョは事件が解決し、
インターポールに入る前の
自分自身を取り戻すことができたのです。
でも、昔のジョジョではなく、
14年間の歴史を経たジョジョとして。

おささんもこの公演のあと、
本名に戻り、男役を演じることなく、
ありのままの自分になることができるのです。
でも、音楽学校時代を含め19年間の宝塚での生活、
男役としての経験は
彼女そのものを形成しているのです。

でも、マルセイユではなく、ニューヨークに行っても
ジョジョはジョジョであることに変わりないのです。

おささんも主演男役として宝塚の舞台に二度と上がらないけれど
おささんであることに変わりはないのですから。

ラスト・シーンは泣けますよね。
銀橋でおささんが一人立ち、
彩音ちゃんは大階段を上り、消えてゆく。
他の組子は舞台から見送る。

サボン・ド・マルセイユ

「アデュー・マルセイユ」に出てくるマルセイユの石鹸って
ジェンヌのメタファーなんですね。

マルセイユの石鹸は
天然のオリーヴと塩と海藻が原料で
とても純度が高く、
色も香りもないんだって。
そのため、ルイ4世がマルセイユだけに
石鹸製造を認めるお墨付きを与えたそうだ。

シモンがマルセイユ石鹸で
最高の踊り子の彫像をつくろうとしたけれど
できたのは踊り子からは程遠い雪だるまでした。
そして、ジョジョと別れる最後には
見事な踊り子を作ることができるようになっていました。

宝塚も音楽学校に入学して
良い環境と良い先生、そして厳しい規則で
二年間の舞台にたつための教育を受けます。
卒業したときは、みな同じような話し方や姿をしていて
まだ個性と呼べるものはありません。

宝塚ではレオタード姿のことをだるまと呼びますが、
初舞台生はだるまを来てラインダンスから始めます。
これから、色々な舞台を経験した
それぞれの個性が育っていきます。
そして、最後には大きな羽を背負い、
一人で大階段を降りてこれるようになります。
(最もごく一部の人ですけど・・・・)

ほんとにこのマルセイユ石鹸ってジェンヌの人生
そのものだなぁとつくづく思いました。

パリとニューヨーク

ラストシーンでおささんが銀橋に一人たち、
ニューヨークに行きます。

一方、舞台では組子たちが見送り、
彩音ちゃんが大階段を上り、
パリに行きます。

ニューヨークはエンターテイメントの本場であり、
世界のアーティストの目標!
パリはレビューの都であり、宝塚の目標!

おささんは大階段を下り、
ショーの本場ニューヨークへ。
大階段を下りられるのは、
大階段を登り詰めた人だけ・・・

彩音ちゃんはレビューの都パリを目指し、
大階段を上っていく。
そして、他の組子たちも大階段を上っていく。

なんかパリとニューヨークって象徴的ですね。
恐るべし、小池修一郎・・・

「アルテミス婦人同盟」

劇中の女性参政権運動団体「アルテミス婦人同盟」
ずっと気になってたんです。
なぜおささんのサヨナラ公演で
婦人参政権運動なんだろうって。
今回の公演を観てわかったんですが、
この「アルテミス婦人同盟」って宝塚歌劇団のことなんですね。

当時のフランス女性は
女には数学なんていらないとか
女には政治がわからないとか
様々な偏見から勉強する機会も与えられず
潜在能力を発揮できないでいた。

宝塚も女性ばかりの劇団で
学芸会のように思われ、
変な偏見がある。
でも、彼女たちは声学・邦楽もでき(勉強し)、
日舞もクラシックバレエもソーシャルダンスの素養もある。

確かに技術は劣るかもしれないけど
平均年齢25歳前後の女性だけの劇団です。
この劇団で経験を積み、
芸能界を支えているのは宝塚OGたちです。

アルテミス婦人同盟は宝塚に対する偏見と
戦っているのかもしれない。
うまく書けないけどそんな感じがします。

でも、下の二点が私のコンテクストにあてはめることが
できませんでした・・・

その1 アルテミスとオリオンの神話
「アデュー・マルセイユ」において
アルテミスとオリオンの神話を取り上げた意味。
アルテミスの祭祀はマルセイユが発祥の地らしいのだけど
女性参政権運動団体がアルテミス婦人同盟であること、
マフィアの名前がオリオンとスコルピオであるのも
神話つながりで良いとして、
なぜジョジョがマリアンヌに対して
オリオンとアルテミスの神話を引き合いにだしたのかな?
単に二人の間で実力の差がなく、
お互いの力を認め合っていたからと言うだけでは
深みがないよね・・・

その2 ジョジョの空白の14年間の意義。
私の解釈ではおささんが男役になりきることを
決意してからの宝塚時代のことなんだけど
劇中ではあまり肯定的に捉えられていないんだよね。
もし私の解釈が正しければ、
最終的には14年間が肯定的な文脈に埋め込まないと
あまりにも悲しいじゃないですか。