不合理とやせて見えるか、太って見えるか問題 10月22日

今日も25度くらいまで気温が上がるようです。
地下鉄では遠足なのか、校外実習なのか、小学生の団体が2組乗り合わせました。

本日のお題は、行動経済学の不合理な行動です。

8月22日に「キーワードは心理学」と書きましたが、その続き、私は不合理シリーズと呼びたいと思っています。

つまり不合理シリーズ第2弾!

まず前にも紹介した錯視の見本の復習から。

地色(背景)が黒と白では、中央の灰色は違って見える。(黒地の方が、灰色は明るく見える)

この不合理について、拙著 ラジオ講座 「こころをよむ」 テキスト 『老前整理の極意』第4回 不合理の理由をさぐる から紹介。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2つのシステム

 錯視により人間の目は簡単にだまされ、機械のようにはいかないということを経験したうえで、次のステップに移りましょう。

 厳密に論理を重ねて答えを見つける方法はアルゴリズムとよばれています。

 行動経済学で人が意思決定をするときこのアルゴリズムに対比して、「直感」で素早く結論を出すことをヒューリスティクスと呼んでいます。
 
 そして「直感」は無意識に楽なルートを選択します。つまり脳の中に2つのシステムがあるということです。心理学ではこれをシステム1、システム2として使っています。

 このシステム1と2は1人の人間の中に存在し、連動しながら問題を処理していきます。ここで、システム1や2では分かりにくいので、私はシステム1を温子さん、システム2を冷子さんと名づけてみました。

システム1(無意識)速い思考—温子 ( あつこ ) さん—自動的に高速で働き、努力は全く不要。あるいは必要であってもわずか。動物も持っている。

システム2(意識下)遅い思考—冷子 ( れいこ )さん—複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動に対して、しかるべき注意を割り当てる。人間特有。

 もし道で蛇に出くわしたら温子さんはキャーッと逃げていくでしょう。
 
 冷子さんは、観察して毒蛇ではないから逃げる必要はないだろうと判断します。問題が 起こった時に、どちらが対処するかなのです。

 車の運転では、はじめはさまざまな技術的な操作を覚えて、意識的に行わなければなりませんから冷子さんが頑張ります。
 
 しかしベテランドライバーになると次の操作のことをあれこれ考えなくても、自然に体の動く温子さんが前面に出てくるようになるでしょう。

 このように温子さんは無意識的に素早く作用し、反応したり感じたりします。「思考」ということばから一般に連想されるようなことはしません。
 
 不意にボールを投げつけられるとよけたり、かわいい子犬を見ると笑顔になったりするときに温子さんが現れます。

 冷子さんの得意なのはもっとゆっくり自覚的に作用することです。

 たとえば「513×47」はいくつかという質問をされたときには、冷子さんが活動します。つまり温子さんは本能的な反応で、冷子さんは意識的な思考だといえます。

 また温子さんの直感的思考がどのように働くかを見るために、行動経済学者のダニエル・カーネマンとシェーン・フレデリックは共同研究を行いました。フレデリックは次のようなテストを実施しています。

(ダニエル・カーネマン著『ファスト&スロー』上より)

問、バットとボールを買うのに合わせて、1.10ドルかかる。バットの値段はボールの値段よりも1ドル高い。ボールの値段は何セントか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 これは行動経済学では有名な「バットとボール問題」と呼ばれています。

そして、ほとんどの人が自動システムで直感的に10セントと答えるといいます。けれども冷静に考えれば正解は5セントだとわかりますね。

バットとボール問題はいかがでしたか。

この問題に温子さんで考えたか、それとも玲子さんでしたか。

 不合理という意味では、テキストに載っていない、別の例を用意しました。

私が色彩を教えていた時に「色には重さがある」というテーマで作った箱です。

質問1、どちらが重いように見えますか、と質問すると、「黒」とほとんどの人が答えます。

みなさんはいかがですか。これはシステム1の温子さんの答えです。

質問2、どちらが大きく見えますか。

こんな風に聞くというのは、何かあるなと思う人は少数派です。

講座では、一番前の人にこの箱を渡して、較べてもらいます。(大きさが同じことはここでわかる)

時々、やはり黒が少し重いという人がおられますが(思い込みか?)、多くの人は同じ重さだとわかります。

ここでは較べてもらえないので、量りました。(笑わないように!)

実はこの箱、私が白い箱を買って、ポスターカラーで色を塗ったのです。
だから重さは同じです。

このように私たちは、色によっても重さの違いを感じているという不合理です。

宅配の荷物の色が黒だったら、荷物が重く感じませんか。

アメリカでは昔、工場で働く人に腰痛が多いので、工場の荷物の箱を黒から白っぽい色にすると腰痛が減ったという逸話もあります。

最後に、質問2の、この2つの箱の大きさがどちらが大きいか、ピンクの方が少し大きく見えませんか。(2つの箱は1辺が10㎝)

これは膨張色、収縮色という特徴で、ピンクの方が大きく見えます。

これをファッションで置き換えると、黒の方がしまってやせて見える、明るいピンクは実際よりも太って見えるということにつながります。

実例で考えてみると、面白くなりませんか。

不合理の話第2弾でした。